私たちはこの二年間、たびたび水窪を訪れ、その暮らしぶりを学ばせてもらった。そこには、いたるところに「民俗知」がちりばめられていたが、同時に、その「民俗知」が地域経済の衰退に伴って非常に危うい状況におかれている現状をも、つぶさに見せつけられたのである。
戦後の高度経済成長期の変化の中で、「ふるさと」は、一方では観光開発によるリゾート地となって消え、また一方では、住民が流出して限界集落となっている状況がある。
このような傾向は、山村だけでなく「都会」にも広がっており、「孤族」という言葉がマスコミに頻出したように、個々人がバラバラに存在し、生の充足感を得られない状況が指摘されている。
そのような、私たちが失ってきたものが、まだ根強く残っているのが水窪である。すなわち、私たちが「水窪の民俗」を調査し、これに学ぶことは、水窪の再生のためにやるということだけではなく、私たち自身の生き方や暮らし方を問い直すことにつながるからである。
三月四日には三遠南信自動車道が一部開通し、四月一四日には新東名高速が開通して,これにつながった。将来は、中央自動車道と接続して、三遠南信の交流がより深まると期待されているが、便利な道路ができればできるほど、山間地の住民は都会に流れ、過疎化に拍車をかけることになるという事例も既にあちこちで耳にしていることである。そうしないためには、ハード面の整備だけに留まらず、ソフト面応が十分なされなければならない。
地域の「民俗知」を掘り起こし、地域の人たちが、自分の住む土地の歴史や文化を理解しりと愛着を持つことが、なにより重要なことではないかと思う。私たちは、そのような情報を掘り起こし、「民俗知」を学ぶことで、この転換期をどう生きていくのかを考えていきたい。
遠州常民文化談話会代表
名倉愼一郎
第1章 | 自然環境と生業 | 中山 正典・北島金三 |
第2章 | 社会組織 | 大石 龍 |
第3章 | 交通・交易・運搬 | 山内 薫明 |
第4章 | 衣・食生活 | 今村 純子 |
第5章 | 年中行事 | 松村 幸彦 |
第6章 | 人生儀礼 | 永井 豪 |
第7章 | 墓制 | 野村 和広 |
第8章 | 祭礼 | 井口 澄男・伊藤久仁俊・名倉 愼一郎 |
第9章 | 民俗芸能 | 伊藤 久仁俊 |
第10章 | 民間信仰・俗信 | 井口 澄男・名倉 愼一郎 |
特別寄稿 | 山の民俗思想-共生と分配の思想- | 野本寛一 |
資料 | ||
1 | 四季献立指南 | |
2 | 念仏踊り歌枕 | |
3 | 霜月祭り祝詞 | |
4 | その他 |
以下の図書館で、ご覧頂くことができます。